神戸地方裁判所 平成11年(行ウ)19号 判決 1999年9月20日
原告
永濱峯子
被告
伊丹税務署
右代表者署長
梶原泰徳
右指定代理人
関述之
同
原田一信
同
久井亮仁
同
吉原宏尚
同
豊田周司
同
黒田道雄
同
森井裕明
同
鷹野郁司
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告は、原告の所得税確定申告者名簿のナガノミネコをナガハマミネコに原簿訂正せよ。
2 被告は、原告の所得税確定申告者原簿をナガハマミネコに訂正して、還付金一四万六七四五円を支払え。
3 被告は原告に対して、所得税確定申告者原簿をナガノミネコで申告処理した原因を究明し、その調査報告書を開示せよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 仮執行の宣言
二 被告
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求の原因
別紙1ないし4記載のとおり
二 被告の本案前の主張
税務署は、国税に関する事務を分掌する行政官署であって、いわゆる行政庁でもなく、また私法上の権利義務の主体でもないから、民事訴訟法上の当事者能力を有しないものである。したがって、被告に当事者能力はないから、本件訴えは不適法なものとして却下されるべきである。
理由
伊丹税務署は、行政官署であって、私法上の権利義務の主体ではないから、法律に特別の定めのない限り、訴訟法上の当事者能力を有しないところ、税務署に当事者能力を認める規定は存しないから、伊丹税務署には当事者能力がないというべきである。したがって、伊丹税務署を被告とする原告の訴えは不適法てある。
よって、本件訴えを却下することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田口直樹 裁判官 大竹貴)
(別紙1)
請求の原因
一 (氏名誤記の所得税確定申告関係用紙届く)
被告から原告に対して、平成十一年一月二十日、ナガノミネコ名義の平成十年度所得税確定申告関係用紙が送付されて来た。原告はナガハマミネコなので、被告に氏名誤記の為、原簿訂正して再送するよう電話で伝え、ナガノミネコ名義の申告用紙を被告に返送した。
二 (再度、氏名誤記の所得税確定申告関係用紙届く)
被告から原告に対して、平成十一年一月二七日、再度、ナガノミネコのナガノを、ボールペンでナガハマに修正した所得税確定申告関係用紙が送付されて来たので、翌日二八日、原告は被告に、再度、確定申告者原簿の訂正をするよう抗議した(甲第一号証)。
三 (平成十年度所得税確定申告)
原告は、平成十一年二月十八日、被告から再送された、ナガノミネコの所得税確定申告用紙を使用せず、初回申告者用の申請用紙で平成十年度所得税確定申告を猪名川町役場でした(甲第二号証)。
四 (ナガノミネコ名義の還付金振込通知書届く)
被告から原告に対して、平成十一年三月二七日、ナガノミネコ名義の還付金振込通知書が送付されて来た(甲第三号証)
五 (所得税確定申告者原簿訂正不可)
原告は被告に対して、平成十一年三月二九日、ナガノミネコ名義の還付金の受取許否を電話で伝え、再々度、所得税確定申告者原簿をナガハマミネコに訂正するよう抗議すると、被告は、原簿訂正するのは今年度は無理なので、来年度からナガハマミネコで申告するとの事であった。
六 (申告者原簿訂正五月中旬)
再三再四の原告の抗議に対して、被告は申告者原簿訂正を五月中旬迄、待ってほしいと電話を申し出て来た。
七 (申告者原簿訂正コピーの確認許否)
平成十一年四月一日、原告の家に、被告担当の藤原三郎が所得税確定申告者原簿訂正のコピーを持参したが、原告は申告者原簿訂正のコピー確認を許否した。
八 (仮処分命令申立提起)
原告は被告に対して、被告の不審な言動に深い疑念を抱き、手記(甲第五号証)に関係あるのではとの懸念から、平成十一年四月八日、神戸地方裁判所、伊丹支部に仮処分命令申立(平成十一年、ヨ、二四号)を提起したが、同月九日、これを却下された。
九 (正当事由)
1 原告は被告に対して、平成十年二月十九日、ナガハマミネコで平成九年度所得税確定申告をした(甲第四号証)。
2 原告は、ナガノミネコ名義の所得税確定申告用紙を使用せず、初回申告者用の無記入の申告用紙で平成十年度所得税確定申告をしたにも拘わらず、被告からナガノミネコ名義の還付金振込通知書が送付されて来た。
3 原告は被告に対して、再三再四、所得税確定申告者原簿をナガハマミネコに訂正するよう抗議したが、念の為、わざわざ氏名、住所、登録番号等が記載されていない初回者用の用紙を使用して申告したにも拘わらず、被告は、ナガノミネコ名義で所得税確定申告したのである。
4 被告は原告に対して、五月中旬まで申告者原簿訂正不可と言った二日後に、申告者原簿訂正したコピーを原告の家に持参した事等から、被告の一連の不審な言動に対して、原告は深い疑念を抱いているのである。
十 よって被告は原告に対して、所得税確定申告者原簿のナガノミネコをナガハマミネコに訂正し、ナガハマミネコ名義の還付金十四万六千七百四十五円を支払え。又、ナガノミネコで所得税確定申告処理した原因と経過を究明し、その報告書を開示せよ。
(別紙2)
補足事項
原告は被告に対して、頭書事件の法的権利として、民事法七〇九条、故意又は過失に基づく行為を原因として他人の権利に侵害を与えた不法行為に対して、平成一〇年度所得税確定申告者の原簿訂正と訂正後の還付金返還、所得税確定申告者氏名誤記の調査報告を求める。
以上
(別紙3)
補足事項
一、被告に、答弁書に、伊丹税務署は大阪国税局管轄の国税に関する事務を分掌する行政機関で、民事訴訟法上の当事者能力を有しないとの主張により、原告の法的権利として、民法第七一九条、故意又は過失に基づく行為を原因として他人の権利に侵害を与えた共同不法行為者として被告に連帯責任があり、訴状の請求を求める。
(別紙4)
被告答弁書に対しての反論
一、第二-二について
被告、伊丹税務署は、行政庁でもなく私法上の権利義務の主体でもないことから、民事訴訟法上の当事者能力を有しないとの主張は、被告に対しての行政庁の指導、監督が徹底されていない結果として起因したものであり、民法第七一九条により、行政庁、大阪国税局、伊丹税務署に連帯責任を有するものである。
法律上の責任を有するか否か以前の問題として、被告は原告に対して、憲法第一三条で保護されている人格権(左記、二)を侵害した事の釈明もせず、民事上、当事者能力を有しないので訴えを却下するという、公権力を盾にした被告の傲慢さに深い憤りを感じている。
二、氏名の保護
氏名は、社会的にみれば、個人を他人から識別し特定する機能を有するものであるが、同時にその個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の尊重であって、人格権の一内容を構成するものである。
人格権は、人間の尊厳に由来し人格の自由な展開、並びに個人の私的生活領域の保護を目的とする権利を指す。
人格的利益のあらゆる側面を保護するものとしての一般的、包括的人格権は、憲法一三条にその基礎を有し、憲法上保障された基本権である。
三、右記二より、被告は、原告に対する被告の不法行為についての審査をした上、原告にその結果を報告する事を請求する。